【怖い話】 まもってくれないと…

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「まもってくれないと…」


知り合いの話。
ちょっと長くなるので、何回かに分けて書き記したいと思う。

その男の名前は佐々木。私の高校時代の後輩にあたる。デジタルガジェット研究会でゲームばかり作っていた私とは違って、彼はきちんとした役に立つソフトウェアを手がけていた。大学に進んでからはしばらく親交がなかったのだが、風の便りで大学を出てソフト開発会社に就職。その後、独立したという話を聞いた。

そんな佐々木と新宿で再会したのは、5年くらい前の話だ。

仕事で本社に来ていた私は、夕食をと思って入ったラーメン屋で見知った顔と出会う。「ジョーンズさん!」「あれ、佐々木じゃないか!」 仕事はすでに終わっていたので、そのまま居酒屋に。ジョッキとおつまみをはさんでひさびさの近況報告に花を咲かせる。

「オレ、結婚するかもしれないです」

佐々木がいった。私は喜んだ。佐々木はいいやつだ。しかし、女性にそういうところをアピールするのが苦手な一面がある。服装や髪型、手持ちのアイテムすべてに彼らしいこだわりはあるが、女性ウケするかといえば難しいだろう。そんな彼に付き合っている女性がいるという。写真を見せてもらった。悔しいが、佐々木希似の可愛い女の子だ。

酒の勢いも手伝って、私は二人の馴れ初めについて聞いてみた。それは後悔することになるのだが…。

二人が出会ったのは、某有名MMORPGだった。オンリーイベントが開かれ、コスプレイヤーたちも多数参加しているアレである。ゲーム中はそれぞれ別のクランに所属しているため面識はなかったそうだが、いくつかのクランによるオフ会に行ったとき、彼女と知り合うことになったという。

彼女は『メルメル』と名乗った。もちろん、本名ではない。ゲーム中のキャラクター名だという。佐々木は彼女に一目ぼれした。二次会のカラオケボックスで、マクロスフロンティアのシェリルを熱唱する美声を聞いたとき、ガツンと大きな衝撃を感じたらしい。

積極的にアプローチしてきたのは、彼女のほうからだったとか。四次会のダイニングでトイレで鉢合わせになった佐々木はメルメルからいきなりキスをされたらしい。舌をからませるすごく情熱的なキス。「ねえ…、付き合っている人いる?」 上目遣いで囁く。言葉が出なくて必死に首を横に振る佐々木。「だったら私と付き合ってみない? オッケーならキスして」。そんなやり取りがあったという。

明け方、佐々木の部屋でふたりははげしく愛し合った。もっとも佐々木はメルメルのテクニックに翻弄されるだけだったらしいが。その日の午後には、二人でショッピングに向かい、夕方には佐々木の二代目のPCがメルメルのプレイ用PCに再設定され、夜にはゲーム中で新しいパーティが誕生。二人はすぐに同棲することになった。

メルメルは21歳。大学は休学し、バイトして学費を稼いでいるという。なんでも親とは折り合いが悪く、仕送りはまったく期待できないとか。「私の唯一のストレス発散がコレなんだよね」。ゲームをやりながら彼女は笑った。

「彼女はすごくいい娘なんです。でも、とても繊細で、ちょっとしたことで自分のせいって落ち込んでしまう。誰かが支えてあげないとダメなんですよ!そんな役目に、勇気をふりしぼって、立候補してみようかなって思っているんです」。佐々木は私の目をじっと見て訴えかけていた。メルメルとは出会って2週間。メルメルはずっと佐々木の家で寝泊りしているとか。佐々木は、フリーランスでプログラマーをしている。高田馬場にある彼のマンションはイコール仕事場でもある。一日中、家でいっしょにいる二人。そんな時間がいとおしくてたまらないという。

私は反対した。

佐々木の決断には、既成事実を作らなければならない焦りのようなものを感じさせた。それが何かは分からないが、そんな心理状態で人生の大きな決断をするべきではない。それは佐々木の聞きたい言葉ではないと思ったが、私は彼のために言った。そのときの彼の顔は忘れられない。その後、彼とは口論になり、気まずい空気となったが、その前の彼の表情の印象があまりに強く、ほかの事は忘れてしまった。

居酒屋の前で彼と別れる。外は大粒の雨が降っていたが、彼は傘をささず、うつむきながら歩いていた。そんな彼の後姿をなんともいえない気持ちで見送る私。雨粒が額をつたって目に入る。メガネと外してゴシゴシとぬぐったとき、視力のつたない視界の中で妙なモノを見た。

うつむいて歩く佐々木の後姿。その両肩のあたりから、妙に長い細い腕が二本、ニュウと突き出すといつくしむように佐々木の背中を抱きしめたのだ。(逃がさない…)。そんな意志が感じられた。急いでメガネをかけてふたたび確認する。佐々木の背中に腕などない。そもそも、抱きつけるような人物は、佐々木の前方にもいない。

気のせいだろうか? いいや、きっと気のせいだろう。

その日はそれで終わった。ところが数日後、私はかなり錯乱した佐々木から再び連絡を受けることになる。すぐに駆けつけた私を待っていたのは、ありえないほど全身を震えさせて外灯の下でうずくまる佐々木の姿だった。

つづく

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