【怖い話】 ザラザラの手

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いつの頃からか、メグミさんは夜中に金縛りに遭うようになった。

その日も、カレシの家でキーーーンッと動けなくなる。
目も開けられない。
指先ひとつ動かない。

だが、真っ暗な意識の中で、ポツンと見えるものがある。
はるか彼方に光る赤いともし火?
いや、顔だ。
味方じゃない、あきらかに自分に対して敵意のある何か。
真っ赤な皮膚、赤黒く充血した目、耳までさけた口。
白い着物(白装束?)を着て、
白く長い髪をたなびかせて、
踊るようにターンッターンッと飛び跳ねながらやってくる。

それは気がつけば、カレシの部屋に入り込み、
メグミさんの足元に立った。
蔑むように、カレシとメグミさんを見下ろしている。
すると、足元から布団に入り込んできた。
ズルリ、ズルリ、ズルリ…。
何者かが足元から這い上がってくる感触が、足、腿、腰を伝ってくる。
ズルリ、ズルリ、ズルリ…。
そいつは、メグミさんの胸元にのしかかるように座ると、
恐ろしく爪ののびた手が、ガッと首をしめかかる。
全体重をかけて、しめあげてくるそれは、確実にメグミさんを殺そうとしていた。
苦しいッ!
血液が顔に集まり、まったく呼吸ができないッ!
なんとか、なんとか、なんとか動かそうとがむしゃらに体を動かそうとした瞬間、
何かがブチッと切れる感触とともに、
メグミさんの右手が首をしめている者の手をガッと掴んだ。

 ザラリ…

いやな感触が手のひらに伝わる。
しかし、それはまるで実態が砂状になってとけるがごとく、
手の内から存在が消えていき、やがて金縛りが解けた。
体が、酸素を求めて大きく呼吸をうながす。
ヒュゴー、ヒュゴー。
瞳に涙をためながら、
メグミさんは(そろそろダメかも…)と思い始めていた。

もう毎晩、あの夢を見て、毎晩殺されかけていた。
このままでは、死んでしまうだろう。
毎晩触るあのザラリとした手の感触。
おそらく老人のものと思われるあれの手にかかって自分は死ぬ。

カレシが朝起きると、横に冷たくなった自分がいる。
口や鼻から体液をたれ流し、ひょっとしたらオシッコでシーツを汚しているかも。
カレシが警察に通報しても、おそらく疑われるのは彼だ。
そんな目にあわせたくない。
チャラいし、すぐに浮気をするし、なかなか定職につかないし、
パチンコと麻雀のせいで借金があることも知っている。
それでも、愛しているから余計な迷惑はかけたくなかった。

  私たち別れよう、じゃあね。

ケータイにそう打ち込み、
メグミはまだベッドで寝ているカレシに気づかれないように荷物をまとめて部屋を出た。
カレシの家に転がり込んで2年。
自分の死期が近いと知った彼女は家で同然で飛び出した実家に帰ることにした。
せめて死ぬ前に、いままでしたきたバカなことを両親に謝っておきたい。
必死の決意だった。

しかしその翌日から、夢は見なくなった。
メグミがいなくなったにも関わらず、カレシからは何のメールも着信も入らない。
腹が立ったが、そのうちどーでもよくなった。

一年ぐらいが経過した頃、カレシとメグミの共通の知り合いと街で偶然出会った。
奇しくも、あのカレシの結婚式だったという。
相手がどんな女の人か知りたくて、式次第を見せてもらった。
その瞬間、分かった。

“あの時の鬼は、この女だ!”

きれいにメイクをされていたが、自分が見たものと面影がある。
隣に写っているカレシは、幸せそうな花嫁とは対照的に
うつろな目をして立っていた。
メグミと付き合っていた頃からは想像がつかないほどやつれている。

「彼女、メンヘラらしくてさ。
 相当、アイツに入れ込んでいてストーカーまがいなこととかしていたらしいよ。
 アイツも最初はいやがっていたんだけど、
 気軽にヤらせてくれるから、
 セレフぐらいのつもりで付き合っていたらできちゃったらしくて…。
 いろいろ式では噂が立っていたんだぜ。
 アンタのこととか。
 それから花嫁、写真じゃ衣装でうまく隠しているけどさ、
 リストカットの常習犯らしくて、左手なんか切るところがないくらい傷だらけで
 ザラザラらしいってさ」

ザラザラした手…?

メグミさんは、(ああ、やっぱり)と確信した。

おそらくこのままでは、カレシは花嫁の想いに押しつぶされてしまうだろう。
だが、メグミさんは警告するのも躊躇った。
もうあの女とは係わり合いになりたくない。
カレシのことはまだ憎からず思っていたが、耐えられなかった。

数年後、
カレシが新たに作った愛人と2人で変死した…と風の便りで聞いた。

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