ファミコン史の古い文献の中に、よく出てくる人物がいる。その名は「高橋利幸」。またの名を「高橋名人」。西暦1985年~1990年における彼の活躍はめざましいものがあり、当時の文献、映像資料に、その名は多く刻まれている。そんな彼の名を冠した作品の存在を知り、我々は息を飲んだ。「ゲーム少年・少女のカリスマが冒険島だと…!?」。研究者たちの探求により、今宵のまた歴史の一頁は紐解かれる─―。
こんにちは、レトロゲームレイダース/ジョーンズ博士です。
今回、発掘した作品は、ハドソンが1986年に発売したアクションゲーム『高橋名人の冒険島』。言うまでもありませんが、この作品の最大の目玉は、当時のファミコン少年・少女にとって教祖のような存在だった高橋名人(本名:高橋利幸)を主人公にしたキャラクターゲームであること。
しかし、ゲームバランスの調整がいつもな感じのハドソンらしく、ワールド4以降の中だるみ感と難易度の急上昇。これにより挫折したプレイヤーも多いのではないでしょうか。
万人に愛されるために生まれたものの愛されにくい作品となってしまった不遇作『高橋名人の冒険島』、その魅力について語ってみたいと思います。
さて、レトロゲーム収集家であるレディース&ジェントルメンなら必須の常識、ライトゲーマーは意外と知らない事実。それは、『 高橋名人の冒険島 』はハドソンオリジナルのアクションゲームではなく、とあるゲームの移植作であること。そのゲームとは、セガの『 ワンダーボーイ 』です。
下の画像を見てください。ソックリであることがお分かりいただけるでしょう。

『 高橋名人の冒険島 』は『 ワンダーボーイ 』をベースにキャラクターとBGM、そして一部ステージ構成をオリジナルにして生まれた作品です。
聞くところによると、『 ワンダーボーイ 』を制作したウエストン自体もこの作品の開発にも携わっていたとか。1986年当時の任天堂ファミコンとセガのマークIIIの関係性は、70年代の冷戦時のソ連とアメリカみたいなもの。そのような中で、ハードメーカーの影に隠れてソウトハウス同士がコンテンツのやり取りをしていたというのは、なかなかのドキドキものの話ですね。
また、その後も、『モンスターランド』(ビックリマンワールド)、『モンスターレア』(同名)、『モンスターワールドII ドラゴンの罠』(アドベンチャーアイランド)、『ワンダーボーイV』(超英雄伝説ダイナスティックヒーロー)など、ウエストン製ワンダーボーイシリーズを移植していくハドソン。その歴史を歩み始めた記念すべき一作目と考えると、なんだか胸がアツくなります。
ワイルド&セクシーなゲームデザイン
ゲームの内容は、高橋名人を操ってステージの終わりまで駆け抜ける…というもの。ステージ内にはタマゴが出現し、これを割ると、「無限に投げられる石オノ」、「移動がすばやくなるスケボー」、「一定時間無敵状態になるハニーちゃん」などが出ます。
石オノは、攻撃の要となるため、必ず取っておきましょう。スケボーは、移動スピードがアップするが、アスレチック面では命を落とすことにもなり兼ねないリスクがあります。ハニーちゃんは苦手エリアを一気に駆け抜けられるので重宝しますよ。
特徴的なシステムが、「バイタリティ」です。要は、食いしん坊の名人は、ほおっておくとドンドンお腹が減ってしまい、画面上に表示されているゲージが“ゼロ”になると死んでしまうというもの。そのため、ゲームプレイはムダな動きをせず、ステージ中にある食べ物を効率的に獲ってバイタリティを維持しながら、ゴールを目指す…というスタイルになります。
ちなみに、障害物との激突はバイタリティの消費だけで済むが、敵との激突は死あるのみ。プレイにはかなりの緊張感が要求されることは覚悟してください。
このバイタリティという概念、これが本作をハドソンの『スーパーマリオブラザーズ』になれなかった一番の足かせだったのでは?と私は思います。
このバイタリティという概念は、『ワンダーボーイ』の仕様をそのまま流用したものです。ここで注目すべきポイントは、『ワンダーボーイ』はアーケードゲームだったということ。
アーケードでは商業的な理由により筐体の回転率をあげるために、ワンプレイを短くさせるための制約を設けます。つまり、そこそこ難しいほうが、コンティニューで100円玉を稼げるということですね。
しかし、本作はコンシューマゲームです。このシステムが、プレーヤーを殺しに来るシステムとなってしまい、単に難易度を上げるだけになったように思えます。
ファミコン版の二作目『高橋名人の冒険島II』は、難易度もちょうどよくなり、とても遊びやすいアクションゲームとなっています。集大成であるファミコン版『冒険島III』もいい感じ。
PCエンジン版『新冒険島』、スーパーファミコン版『大冒険島』、PS2版、GC版、Wiiウェア版と、実は歴史の長いシリーズになっている冒険島。その中で、とっつきにくいファミコン版の一作目を私が推す理由…。
それは、本作がハドソンがもっとも輝いていた時代に作られた作品だから。
子どもたちのアイドルだった高橋名人を主人公に仕立て上げ、コロコロコミックで大々的にプロモーションされ、音楽はハドソンミュージックの立役者である竹間淳氏が担当し、お茶の間で子どもたちがワイワイと楽しむ。その中心にハドソンブランドがあった象徴といえる作品です。
たしかに難易度はクソ高いです。しかし、クリアできない絶望的な高さではありません。カベはワールド4。ここをクリアできるウデがあれば、ワールド5~8はそのテクニックで充分に挑戦できます。
最大の難所、8-3ゴール直前の連続ジャンプ台&着地地点の岩に関しては“運”が求められるのですが、そこまで行けば最後のキュラ大王はすぐそこです。
ファミコン少年少女たちに広く知れ渡っている数少ないゲームの一つ。30代の女性を口説くときに、「オレ、最近、高橋名人の冒険島をクリアしたんだぜ」といえば、「ステキ★」といってもらえることは間違いないでしょう。大人の勲章をひとつ付けると思って挑戦する。また、子供の頃にクリアできなかったという“宿題”を大人になってから片付ける。
そんなオトナファミコンな楽しみ方にはちょうどいい作品だと、私は思うのです。
=注意=
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