黄昏時には、怪しい世界とつながる何かがあるんですかね…。
知り合いから聞いた話。
心霊とかに結び付かないかもしれないことを、先に付け加えておく。
その女性、Sの実家の近くにマンションが建っている。
大きなマンションだ。
建物の前には大きな公園があり、さらに駐車場があり、道路がある。
Sは、その道路を毎日通って、バイトに行き、家に帰る。
“それ”を発見したのは、ある夏の夕方だった。
何気なく見た、マンションの4階の左から何番目かのベランダのある窓に、
へんなものが見えた。
いや、正確にはよく見えない。
なぜなら部屋の明かりはついておらず、部屋の中は暗いからだ。
窓にカーテンは付いていない。空き家なのか?
その窓の奥に見えたのは、「足」だった。
人間の足。
床につま先を着けられない高さで、
宙に浮いて、ブラーンブラーンと振り子のように揺れている。
「え!?」と思うが、
目をこすってもう一度見ても振り子は変わらないままだ。
やがて、太陽の沈む角度のせいか、部屋はより暗くなり、
何も見えなくなってしまった。
事件の可能性がある。
自殺かもしれない。
しかし、Sさんは何もしなかった。
あまりにも見たものが非現実的だったからだ。
それに、部屋の中で長めのパンツを干していただけかもしれない。
そのうち、誰かが見つけて事件になるだろう。
そう思っていた。
事件にはならなかった。
そのかわり、何も解決はしなかった。
最初に見つけてからすでに2年もの月日が立ったが、
今でも夕方になるとたまに見えるのだという。
マンションの4階の左から何番目かのベランダのある窓に、
部屋の中で、振り子のように静かに揺れる両足を。
男なのか、女なのかも分からない。
何かメッセージがあるのかもしれないし、
過去の出来事を再現しつづけているだけかもしれない。
脳が見せるまぼろしの気もするし、
超常現象の一環のような気もする。
ただ、それは、揺れ続けているのだとか。
ブラーン、ブラーン、ブラーン…と。