【怖い話】 こわい野球少年


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稲川さん

どう考えても、アレを拾ってからおかしくなったんですよ…。

友人から聞いた話。

数年ぐらい前から、Aさん(仮名)は奇妙な夢を見るようになったという。
毎晩ではないらしいのだが、
内容を覚えているということは頻繁の部類に入るのだろう。

内容はこうだ。

気がつくと、Aさんは真っ暗なところに立っている。
外のような気もするが、屋内のような閉塞感も漂う場所だ。
周りは何も見えない。
なんとか状況を探ろうと耳を済ませると、何か聞こえる。
『お経』だ。
それはどんどんはっきりと聞こえてくる。
一人の声ではなくなり、多くの人が唱え始め、
やがて耳を塞ぎたくなるような音量での大合唱となった。
そこになって気がつく。
それはお坊さんの唱えるそれとは何か違う。
何が違うのか仏門に明るくないAさんには具体的に説明できないのだが、
なんか禍々しいものを感じる。
聞いていると、とても不愉快になる『音』なのだ。

耳を塞いでその場から立ち去ろうとするが
その読経はどこまでもついて来る。
それは、まるで自分を追い詰めるかのように。
Aさんはその音から逃げるように駆け出した。
やがて暗闇の先に光が見え始める。

(あそこに行けば解放される!)

なぜかそんな気になって光に向かって走る。
読経はまだ追いかけてくる。
すると、光の先に誰かが立ちはだかっている。
逆光でよく見えない。
背丈から推測するに少年のようだ。
頭にはツバの付いた野球帽(?)をかぶっている。
だが、体には何も纏っていないようだ。

(おかしい)

その少年にAさんは気味の悪いモノを感じた。
頭と体のバランスがなんだかとれていない。
ものすごく痩せている体。
手、足も細く、とても体を支えられるとは思えない。
その動きも操り人形のようにどこかぎこちない。

少年がこっちを指差して何か言っているようだ。
何を言っているのかは読経がうるさくて聞こえない。
でも何か言っている。
それはなぜか聞かなくてはならない気がする言葉。
でも聞こえない。
少年の野球帽のツバが揺れた。
(なんでツバが揺れるんだ?)
と思った途端・・・!

夢から醒めるのだという。
全身から滝のように汗を流し、なんだかひどく体が疲れている。
どこか生々しい夢だった。

ある時、仕事中のAさんのもとに1本の連絡が入った。
「え! 母さんが交通事故!?」
Aさんのお母さんは、父親の経営する会社の経理をしていた。
用事で車で出掛けた時にその事故は起きたという。
命に別状はなかったものの、右足と右腕を骨折してしまい、
しばらくは入院することになった。

「母さん、一体どうしたんだよ」
「それがねェ、母さんにもよく分からないんだよ…」

母親の安全運転はAさんもよく知っていた。
母親はいつも通りに運転をしていたのだが、
交差点近くで「分からなく」なってしまったのだと云う。
意識にモヤのようなものがかかり、
強い衝撃で我に返った時には車はガードレールにぶつかり、
右手と右足に激痛を感じていたとか。

「なんだい、そりゃ?」
「なんだろうねェ。母さんも歳なのかねェ…」

母親はそれ以来、車に乗れなくなったという。

しばらくして、
母親に代わって家事をしていた姉が階段から落ちて頭を強く打った。
一時的な記憶喪失を起こしたほどだったという。

しかし、この事故は少しおかしかった。
実はAさんはお姉さんが事故を起こしたの第一発見者だったのだ。

ダンッダンッダンッ

という大きな音がしたので、1Fの階段下まで駆けつけたが姉の姿がない。
姉が倒れていたのは2Fだったのだ。
ちなみにAさんの実家は二階建て。
お姉さんは階段を落ちた後にすばやく自力で2Fにあがったのか?
それとも、1Fから2Fに“落ちて”いったのか?
どちらにしてもバカバカしい話だ。

あの夢は毎晩のように続いていた。
その夢は確実にAさんから、そしてAさんの家族から何かを吸いとっている。
なぜか、そんな想いにとらわれた。

祖父が死んだ。
昨日まで元気だった祖父がある朝、布団の中で冷たくなっていた。
原因は不明。
いわゆる『変死』というやつだったという。

「私、最近、変な夢ばかり見るの」

一時の記憶喪失も治った姉が、ふと、つぶやいた。

「ひょっとして、あんたも見てるんじゃない?」
「なんだよ、アネキ」
「いや、ちょっとね・・・なんか、おかしいんだよね」
「何が?」
「何かがおかしい気がするんだよ、最近。
 家の中が暗くなったような気がするし、
 変な事がいろいろ起きるし、
 何より・・・父さんも、おかしくない?」

姉の心配通り、
祖父の死後、父は奇行が目立っていた。
よくワケのわからないモノを買い込んでくるようになっていた。
もともと収集癖があった父だが、
今集めているモノに関してはまるで統一性がなかった。
何の価値もなさそうなガラクタばかり。
いや、唯一あるとすれば、すべてが紅かった。
父の奇行は経営にも影響を及ぼし、経営していた会社はあっけなく倒産した。
その後、お父さんは失踪してしまったという。
行方はいまだに知れない。

そんな立ち続けに起こる不幸は、確実にAさんを追い詰めていた。
仕事に支障をきたし始めた時には、医者から“鬱”と診断。
サラリーマンとしてやっていくに限界を感じ、会社を辞めることにした。
実家は差し押さえられてしまったため、
Aさんとお姉さん、お母さんは家を出ることになった。

引越しの日。
お姉さんの友人のキタガワさんが手伝いに来てくれた。
Aさんとも交流があり、小さい頃はよく遊んでもらっていた
もう1人の“お姉ちゃん”といえる優しい女性だ。

ところが、キタガワさんは家に入るなり「うっ」と口を押さえた。
「どうしたの?」
心配する姉をよそにキタガワさんの目つきはするどくなり、
ふー、ふー、と深呼吸を何度かすると、よろよろと家に入っていった。
廊下を走るように進み、着いた部屋はAさんの部屋。
キタガワさんはAさんを怒鳴りつけた。

「アンタ! そんなモン、いつまで大事に持ってるの!」
「?」
「御守り! 本当は御守りじゃないんだけれど、
 そんなようなモノ、アンタ、持ってるでしょ!」

そこまで言われてAさんは、何を言われているかようやく思い至った。

Aさんがソレと出会ったのは、黄ゴールデンウィ
ークも終わった五月の半ば頃。
帰宅途中のゴミ捨て場に、その場に似つかわしくないものがあった。

『御守り』である。

(御守りを捨てるなんてバチあたりだな)

Aさんはそれを拾い上げると自分の家に持ち帰った。
深い意味はなかったのだが、そのままにしておくのは気が引けたのだ。

しかし、その御守りはよく見ると変だった。
そもそも御守りとは巾着の正面に『ご利益』と『神社の名前』が
刺繍されているものだがこれにはそれがない。
どうやら誰かの手づくりらしい。
Aさんはそれを自分の机の引き出しにしまっていた。

「引き出し!机の引き出しの中!」

キタガワが指を差して怒鳴った。
たしかにそこには、あの御守りがあった。
ぐいっ、とAさんの手をひっばるとキタガワさんはすぐ近くの公園に連れ出した。

「アンタ! そんなモノ持っていてよく平気だね!」
「この御守りの事?」
「それは御守りなんかじゃないの!中を開けて!」
「どうして?」
「私じゃ触れられないのよ!」

物凄い剣幕でまくし立てられ、Aさんは御守りの中身を出した。

中には、薄い油紙?が入っていた。
折りたためられた手のひらほどのもの。
表面には無数の皺と、
無数の小さな穴がある。

「なんだ、コレ?」

「人間の頭の皮よ」

その瞬間、Aさんの脳裏に『あの夢』と『御守り』が繋がった。
夢の中の少年。
ツバのついた野球帽をかぶった少年。
風でゆれる野球帽のツバ。
あれは野球帽ではなかった。

あれは・・・

少年のアタマの皮がめくれている状態だったのだ。

ゾッ・・・!
理解した途端、全身に鳥肌がたった。

キタガワさんの指示でその頭皮は燃やす事になった。
ジュッ、
それはすぐに燃えた。

子どもの頭皮を、なぜはがす必要があるのか?
それをきちんと畳んで、なぜ御守りのように大事にしまうのか?
どちらにしても常軌を逸している。
この御守りを作った人の神経がわからないし、知りたくもない。
そして、近所のゴミ捨て場にあったことから
近所に住んでいるという可能性を考えるととても怖い。

「夢の中に出てきた少年は被害者かもしれないけどさ、
 球児を見ているといやでも思い出すんだよ、昨日見た夢をな」

御守りがなくなった今も、
縁をもってしまったAさんはいまだに悪夢から解放されていないという。

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