ワンダースワンで見つけた、今は亡きコンパイルのSTG魂!
基本的に、自分のことを“シューター”と名乗っている人間は総じてバカである。シューティングゲームの原点は、いかに多くの敵を倒して点数を稼ぐか。スコアという名のたかが数字のために、己の全神経を目の前のゲームに集中し、弾幕をはり続けるのだ。バカ以外の何物でもない。だが、それでいい。シンプルなことに本気になるからこそ、シューティングゲームはどこまでも熱いのだ。携帯ゲーム機において、本作を超える“熱いSTG”は存在しない。私はそう断言する。
さあ今宵も、時代に埋もれしレトロゲームの歴史を紐解いていこう――。
こんにちわ、レトロゲームレイダース/ジョーンズ博士です。
今回、発掘した作品は2004年らキュートから発売されたワンダースワン用シューティングゲーム(STG)、『ジャッジメントシルバーソード リバースエディション』。先にも語りましたが、携帯ゲーム機において本作を超える熱いSTGはないと断言できる名作です。
私が声を“大”にしてこのゲームを伝えるのには理由があります。それは、以下の理由によってこのゲームが一般的ではないからです。
① STGを愛する人がそもそも少ない
② 上記の理由が大きく、特に携帯ゲーム機にSTGが出ない
③ しかし、携帯ゲーム機がSTGをやりたい人々はいる(特にオレが)
④ 特に、コンパイル系STGは忘れられない
⑤ コンパイル系STGという系譜自体が歴史に埋もれかけているから
ご存知の通り、当ブログの目的は、かつてプレイしたことがある人の心にもう一度情熱の火を灯すこと、まだ未プレイの人に記事のゲームについて興味を持ってもらうことの二点。
そして、この画像に注目してください。
これは、『ジャッジメントシルバーソード』ハードモードのランキング画面。デフォルトで入っているランカーたちの名前をつなげていくと、あるメッセージが浮かんでくるのです。
IMA WAN AKI COM PIL ENI SAS AGU
(今 は 亡 き コ ン パ イ ル に 捧 ぐ 。)
そう、この作品は、のーみそコネコネのキャッチコピーでおなじみだったあのコンパイルが作るSTGへのオマージュあふれるSTG。これは事件です。そして、「私が伝えなくて誰が伝える!」というはた迷惑な使命感によって、この『ジャッジメントシルバーソード』の面白さから目を背けるわけにはいかなかったのです。
『ぷよぷよ』や『魔導物語』のイメージが強いコンパイルですが、その黎明期は優れたシューティングゲームを作り続けたシューティングゲームメーカーでした。『ザナック』や『アレスタ』くらいなら「名前くらいは聞いたことがある」という方も多いのではないでしょうか。
作品により特徴があるので一概にはくくれないのですが、コンパイル社製シューティングには、以下のような特徴があります。
① 画面がちょっと地味
② 攻撃は基本的にショットのみ。派手なオプション攻撃はない
③ 連射ではなく、敵との戦い方のテクニックを重視
④ やればやるほど面白くなっていくスルメのようなゲームデザイン
⑤ 高い技術力がいたるところで垣間見える
『ザナック』や『ブラスターバーン』がいい例なのですが、画面はとても地味です。攻撃方法は基本的にショットのみであり、画面全体の敵を倒す「ボム」などは存在しません。あったとしても前方からの攻撃から身を守る「シールド」くらい。背景やステージ構成に凝っているわけではないので(凝っている作品もある)、静止画だけで作品の面白さを伝えるのはとてもムズカシイという一面があります。
ザナック
ブラスターバーン
ガーディック外伝
連射されるショットで、小気味よく現れる敵機を次々と通していく。倒す順番や方法は自由ですが、効率よく撃破していくには敵機にギリギリまで近づき、ほぼゼロ距離射撃で撃ち込んでいくスタイルになります。敵の出現に合わせて直線的な動きで自機を動かし、ショットの大盤振る舞い。軽快なコンパイル節あふれるBGMにマッチしたテンポのいいゲーム展開。プレイの腕前が上がれば上がるだけ、見ているギャラリーも盛り上がっていく。それが、俗にいう“コンパイルシューティング”でした。
プレイ感覚がどこか懐かしい、『ジャッジメントシルバーソード』!
さて、本作『ジャッジメントシルバーソード』は、そんなコンパイルシューティングの流れを汲む“爽快系”シューティングゲームです。
兵装は3つ。前方攻撃に特化した「前方ショット」、広範囲の敵に向いた「ワイドショット」、敵弾を防ぎ、敵にダメージを与える「シールド」のみ。この使い分けが本作をプレイする際の“肝”になります。
特筆すべきはステージ構成でしょう。本作は全30ステージありますが、1ステージの長さはだいたい数十秒。「だいたい」といったのは、出現する敵の数は決まっており、倒した時点でステージクリアとなるため、1ステージのプレイ時間はプレーヤーによって変わるのです。当然、早くクリアできればできた分だけタイムボーナスが得点に加算されます。
わずか数十秒のシューティングステージをクリアしていくこのテンポの良さは、『メイド・イン・ワリオ』に通ずるものがあるといえるでしょう。
もちろん、数ステージごとにはボスが存在。これまた多彩なデザインと攻撃方法でプレーヤーを飽きさせません。このようなメリハリのついたゲーム展開で、30ステージがつづいていきます。
1ステージの幅を短くした構成は、携帯ゲーム機用シューティングであり、どこでもきりのいいところで中断できるという配慮に他なりません。と同時に、数十秒ごとに、一旦、ひと息入れられる“間”を入れることで継続プレイのストレスを軽減。全滅しても「もう一度だけ」と思わせる仕掛けになっている点も見逃せないでしょう。
そんな本作をプレイしていて強く感じるのが、『ザナック』や『ブラスターバーン』をプレイしているような感覚です。ショットの出し方、弾があたった時のSE、敵の堅さ、敵の出現の仕方…。ゲーム中のいたるところに、MSXの匂いを、そしてコンパイルらしさを感じてしまうのです。
さて、本作はワンダースワンというバンダイ製携帯ゲーム機で生まれました。このワンダースワンにはアマチュア向けゲーム製作キット『ワンダーウィッチ』が公式にリリースされており、それを使ったプログラミングコンテストが開催されました。本作はその第一回でグランプリを受賞した作品を商品化したものです。
バージョンがいくつか存在し、無印の『ジャッジメントシルバーソード』がグランプリに提出したバージョン(数百本しか出回っていないらしい)。後にキュートから発売された『リバースエディション』は、商業用にゲームバランスを調整したバージョンです。筆者が所有しているのはこのバージョンでした。
制作者のM-KAI氏は、MSXを舞台に同人シューティングを作られていた方で、知る人ぞ知る有名人です。何がすごいかというと、隣のブースにあるX68000用シューティングよりもずっと商業用シューティングらしいゲームをMSX turboRで実現していたほど!また、ゲーム自体も「よく分かっている」出来で、本当に世の中には凄い人がいるもんだと感動したものです。サインもらっておけば良かった。
そんな氏が手がけた本作は、縦画面も使えるというワンダースワンの特徴を活かし、グラフィック性能が劣る携帯ゲーム機で、絵や演出が弱くても面白かった8ビットシューティングを、これ以上ないくらい再現した。それが、『ジャッジメントシルバーソード』です。
「シューティングは一部の人たちのもの」ではなく、「誰でも楽しめるもの」。そんなメッセージが隠れているように、かなりとっつきやすいイージーモードの搭載や1UP(エクステンド)がたくさん出てくる仕様など、ライトユーザーへの配慮も行き届いています。近年では、同氏が開発に関わったXbox360STG『エスカトス』に、本作が収録されているので遊びやすくなりました。
短時間のストレス発散に、わずか10数分で終わる熱い戦いを体感されてはいかがでしょうか。