男には、いくつになっても変わらず大好きなものがあるのです。それは、「キレイなお姫様」と「それを助けに行く勇者である自分」、そして「大怪獣」。そんな男の遺伝子に刻まれた三大要素で構成されているのが、こちらの作品。この記事は、アーケードゲーム『ドラゴンスピリット』のレビューであり、感想であり、今こそ再評価するべきポイントをまとめたものになります。
さあ、今宵も、歴史に埋もれし、レトロゲームの魅力を紐解いていこう――!
こんばんわ、レトロゲームレイダース/ジョーンズ博士です。
今回発掘した作品は、ナムコが1987年に発表したアーケード用シューティングゲーム『ドラゴンスピリット』。イケメンの国境守備隊長であるアムルくんが、美人のアリーシャ姫を救うために、ブルードラゴンになって戦いに身を投じる…という”ロマンシング・シューティングゲーム”だそうです。
神々の時代――。
地上にはすべてを滅ぼすために生まれてきた魔王ザウエルとその闇の眷属たちであふれていた。立ち上がったのは、太陽神アーリアとその御使いであるブルードラゴン。彼女たちの活躍によって、ザウエルは討たれ、その肉体は北の果て氷河地帯の奥深くに封じられる。かくして、世界は平和をとり戻した。
そして時は流れる。
地上から脅威がなくなったため、人間たちはその数を増やし、王国を作って繁栄していった。王国の名前はミッドガルド。しかし、アーリアとザウエルの戦いは人々の記憶から薄れ、絵物語の1つとしてその姿を残すのみとなってしまっていた。
神の力は人々の信仰によるもの。信仰を失ったアーリアの力は弱まり、ザウエルはそれを見逃さなかった。ミッドガルド王国の王女アリーシャの生誕祭の日。漆黒の闇とともに突如現れた魔物たちに姫は連れ去られてしまう。
その頃、ミッドガルド王国の国境は大地震に見舞われ、その後、信じられない報告が相次いだ。地上のいたるところが破壊され、太古の世界の甦りつつあるという。見たこともない巨大な獣、人を襲う巨大植物、この世ならざるものがあふれはじめた。世界はザウエルの手によって書き換えられようとしていたのだ。混乱の中、国境守備隊長のアムルの前にアーリア神が姿を現した。
「私は太陽神アーリア。太古の昔に封印した魔王ザウエルが甦りつつあり、この世界の異変はすべて彼の仕業です。彼は完全復活のために、王女アリーシャを生け贄にしようとしています。それが成しえれば、人々は絶望に陥り、それはザウエルにさらなる力を与えてしまいます。人々からの信仰を失いつつある私には、かつてようにザウエルと戦う力はありません。そのかわり、この聖剣をあなたに授けましょう。これは、非力な人間が勇気を持って魔の者たちと戦える力を秘めたもの。さあ、その剣を天にかざすのです」
アムルが聖剣を天にかざすと、まばゆい力が彼を包み、彼は自分の腕がたくましい翼に変わっていくのを見た。今やそこに立つのは、ミッドガルド王国の国境守備隊長アムルではなく、悪の魔王ザウエルを太陽神アーリアと共に氷河地帯奥深く閉じ込めた伝説のブルードラゴンだった。
こうして勇士アムルは、ザウエルを目指して飛び立った。果して闇に閉ざされたこの地に、再び光さす日は訪れるのだろうか!?
国境守備隊長アムルが変身したブルードラゴンを操って、魔王ザウエルがいる氷河地帯に向かって進撃していくシューティングゲームです。
ブルードラゴンの攻撃方法は、空中攻撃と地上攻撃の2つがあります。いわゆる『ゼビウス』や『ツインビー』と同じタイプといえば分かりやすいでしょうか。
本作のグッとくるポイントは、自機がドラゴンであるという点でしょう。それまでのファンタジー作品においてドラゴンとは倒すべき敵であることが多く、巨大な体躯、火炎放射といった高い攻撃力、底知れぬ体力などを有した脅威でした。「その存在を今度は自分が操れる」というところが、本作のプレーヤーの心を揺さぶるトリガーポイントに他なりません。
そんなドラゴンが主人公ということもあり、本作はフツウのシューティングゲームと異なり、自機の攻撃力が高いです。パワーアップアイテムを取ることで火力はどんどん増していくのは当然のこと、首を増やしていくこともできます。首が2本ならツインショットに、首が3本ならトリプルショットに…といった具合。首が3本になった状態は、映画『ゴジラ』シリーズに出てくるX星人が操る3つ首竜キングギドラそのものです。
怪獣映画の話が出てきましたが、本作はファンタジー世界観という皮をかぶっているものの、着想や敵デザインには、『ゴジラ』や『ガメラ』といった怪獣映画、『ウルトラマン』をはじめとする空想特撮シリーズ、夏休みではおなじの大恐竜展といった男の子が大好きなモノが垣間見えます。むしろ、本当はそれをやりたかったけど商業的に厳しいからファンタジー作品にした、とすら見えるというのは邪推でしょうか。
でも、氷河と宮殿ステージ以外はどう見てもジュラシックな感じで、いわゆるファンタジー世界さをまったく感じません。しかしそれが、本作の独特の世界を作り出しているともいえるのでしょう。
火力の話に戻ります。
本作は、一画面に表示される弾数に制限がないため、通常弾でもかなりの連射が可能です。そのため、通常弾だけでもなんなく進めてしまいますし、各ステージのボスを瞬殺することも可能。ブルードラゴン強し、です。< br />
しかしブルードラゴンにも弱点があります。それは身体が大きいこと。そのため、弾避け&敵避けがしづらいです。マニアックな言いかたをすると、「自機が大きく当たり判定が大きい」というやつであり、この点を本作の欠点と指摘する方もいますが、私には言わせれば、ドラゴンの身体がデカいのは当たり前なわけで、ゲームの仕様以外の何物でもありません。
むしろ、身体が大きく的になりやすいから「先手必勝で敵を倒さないとキツイ」という、ドラゴンあるあるを上手く表現しているのではないでしょうか。ドラゴンの身体を小さくするアイテムもあるんですけどね。
最後に、音楽についても触れないわけにはいきません。
作曲しているのは、細江慎治さん。本作の開発時はアルバイトだったそうですが、本作での功績が認められてナムコに正社員として採用されたという経歴があります。なんだろう。上手く言葉にできないのですが、『ドラゴンスピリット』の曲はすごく良くて。イントロ~AREA1の曲なんか、MSXに打ち込んで1日中聞いていました。
細江さんは数々のナムコ作品の音楽に関わっており、作風も楽曲も個人的に大好きです。現在は、スーパースウィープの社長として、自身が手がけた作品のサウンドトラックのほか、埋もれている作品のサウンドトラック制作に励まれています。
・ブルードラゴンは火力が強い
・ブルードラゴンは弾を避けるのが苦手
・ファンタジーって言っているけどジュラシックな世界観
・男子限定の燃え要素が満載
・音楽がすごくいい
『ドラゴンスピリット』は、1980年代のナムコアーケードゲーム黄金期に作られた名作の1つです。この頃のナムコ作品の特徴は、ゲームとしての面白さはもちろん、世界観の作り込みと、こういうゲームもアリだろ?という開拓精神が素晴らしいです。
特にアーケード作品は、ひと目で100円使いたくなるだけのハートキャッチさをゲームに取り込まなければならないわけで(稼げないから)。プレイしていけば面白さが少しずつ分かってくる…ではダメなんです。プレーヤーの遺伝子に刷り込まれている燃え要素をシゲキして「面白そう」と思わせる仕掛けが優れており、プレイ後の感想が「思った通り面白かった」となる信頼関係が、ブランディングであり、今日でも通用する名作たる所以なのかな…と思います。