ストーリーを楽しむ推理アドベンチャーがあるように。ストーリーを楽しまない推理アドベンチャーもあるのです。本作は、まさに後者。与えられているのは、膨大な情報です。その中から事件解決のために必要な情報を見つけ出し、仮説を立てて、次に必要な情報が何かを考えていく。すべてが自由。ゆえに、何をやってもいい。そんなオープンワールド的な発想でのぞむべき推理アドベンチャーが、この『シャーロック・ホームズの探偵講座』なのです。
さあ、今宵も、歴史に埋もれし、レトロゲームの魅力を掘り起こしていこうじゃないか。ワトソン君。
こんばんわ、レトロゲームレイダー/ジョーンズです。
今回発掘した作品は、1991年7月26日にビクター音楽産業よりPCエンジンCD-rom2用アドベンチャーとして発売された『シャーロック・ホームズの探偵講座』です。もともとは、ICOM Simulations社によるFM TOWNS用アドベンチャーゲームであり、本作はその移植版になります。
本作の特徴は、俳優を使ったドラマムービーがゲーム中にふんだんに使われている点です。一般的なアドベンチャーゲームは、静止画とテキストによって構成されていますが、本作では重要なシーンでは、実写動画が流れます。
外国人俳優を起用し、セットや服装も19世紀のロンドンに合わせたもの。吹き替えは、ホームズ が若本規夫さん(ドラゴンボールのセル役)、ワトソンが今西正男さん(007シリーズのM役)が担当しています。1つひとつの動画は数分程度ですが、シャーロック・ホームズの世界観を充分に味わうことができ、まるで映画を見ているような感覚です。
FM TOWNSというPCは、CD-ROMを活かしたコンテンツを数多く輩出しており、今では当たり前になっている「音や映像が流れる」を1990年代前半で実現していた、未来を感じさせるPCでした。本作はPCエンジンへの移植ということで、画像はちょっと粗め、音声もちょっとくぐもっていますが、それはご愛敬ということで。m(_ _)m
いかがですか、ちょっと興味が湧いてきましたか?
しかし、本作をプレイする上で気を付けなければならないことがあります。それは、「超絶的に難易度が高い」ということです。
「私は、きちんと忠告をしたよ」
『シャーロック・ホームズの探偵講座』を、『ポートピア連続殺人事件』や『ファミコン探偵倶楽部』と同じように考えていたら、間違いなく、本作をクソゲー認定してしまうでしょう。なぜならば、本作には、どのように捜査を進めていけばいいか教えてくれるヤスもあゆみちゃんも存在しません。ご覧ください。
いきなりこのような、ワケの分からない画面に案内されてしまうのですから。これが『シャーロック・ホームズの探偵講座』の基本画面です。それでは、本作がどういうゲームなのかを解説しましょう。
本作は、調べるべき「場所」「人物」「メディア」の検討をつけて、その場所に赴き、該当人物に話を聞いたり、情報屋に調べてもらって、プレーヤー自身が事件の真相の仮説を立てて、最後に裁判所に申し立てる…という流れです。J.B.ハロルドシリーズに似ている展開ですね。
何をやっても自由です。どこに行ってもいい。誰に話を聞いてもいい。何を調べたっていい。とても自由。ゆえにスゲェ難しいのです。
情報を聞ける人間はこれだけいます。しかもこれはホームズ普段操作に使っている人たちだけ。ここに事件関係者がどんどん追加されてきます。
ロンドンタイムズの新聞を調べることもあります。ちなみにこれは1日分の半分の量。これが10日分用意されています。
こちらが住所録。これは「L」のページ。ご覧の通り「A」~「Z」までページが存在し、すべての場所に移動することができます。
お分かりいただけたでしょうか。
『シャーロック・ホームズの探偵講座』には膨大な情報があらかじめ用意されており、その中から今自分が担当している事件において必要な情報を自力でピックアップし、何があったのかを推理していく…そんなゲームなのです。
もっというならば、ゲームにお膳立てしてもらってシャーロック・ホームズの華麗な推理を体感できるゲームではなく、シャーロック・ホームズと同じ立場でシャーロック・ホームズの仕事を体感させられるゲームということ。タイトルにある「探偵講座」の意味を、冷や汗とともに理解していただけるでしょう。
逆に言うならば、本作にはフラグ立てというものが存在しません。解決のためのルートも1つではありません。すでにある情報の中から、実現不可能なものを省き、現実的な可能性に絞っていけば、真実に辿りつくことができます。オープンワールド的な自由度の中で、ホームズシミュレーションができる作品でもあるのです。
ゆえに、一度クリアしても、「膨大な情報の中から真実に辿りつく別ルートを探る」という楽しみかたもできます。「膨大な情報をあえて楽しむ」という遊び方も可能です。
そもそも本作は、本格的な推理ゲームブック『シャーロック・ホームズ10の怪事件』をベースに作られたもの。本作はCD-2枚組用ケースに入っていますが、取扱説明書の他に、ゲーム中でも見ることができる「ロンドン住所録」と「ロンドンタイムズ」が付いています。『SNATCHER』の設定資料よりも情報量があります。ゲームプレイしない時間にこれらを読んで推理する…。クリアを急がない。クリアに至るまでのプロセスをとことん楽しむ。そんな大人の推理アドベンチャーゲームなのです。
本作で遊べるのは、「The Mummy’s Curse(ミイラの呪い)」「The Tin Soldier(錫の兵隊)」「The Mystified Murderess(放蕩息子の死)」の3つの事件。
いずれも、情報をきちんと読んでいけば、読み落としさえなければ、必ず真実に辿りつけます。かつて、『ひぐらしの鳴く頃に』が同人でブレイクした頃、誰もが考察を楽しんでいました。あんな楽しみ方ができるゲームだと、俺は思っています。
「お子様には、少し難しいかもね」
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