「ただのバカゲー」という誤解の多い『超兄貴』シリーズ。二作目の本作は、前作でマッチョな姿で主人公の上下でクルクルまわっていた無敵じゃないオプションであり、人間界の王子でもあるアドンとサムソンが主人公。ポージングによって筋肉の美しさを前面に出すことで相手の心にインパクトを与えて敵を自爆させて倒すという、何回読んでも何を言っているのかよく分からないコンセプトで作られた、とても挑戦的な作品だったことを、私たちは忘れてはならないと思うのです。
さあ、今宵も、歴史に埋もれし、レトロゲームの魅力を掘り起こしていこう――。

こんばんわ、レトロゲームレイダー/ジョーンズです。
今回発掘した作品は、1995年2月24日にメサイヤよりPCエンジンSUPER CD-rom2用シューティングゲームとして発売された『愛・超兄貴』です。タイトルから分かる通り、名作筋肉シューティング『超兄貴』の続編であり、「あい・ちょうあにき」と読みます。
『愛・超兄貴』ってどんなゲーム?


今回は、前作『超兄貴』からの2年後の話。ビルダー星の帝王ボ帝ビルを倒し、プロテイン採掘プラントにされていた周辺の星々を解放したイダテンとベンテン、そして人間の王子アドンとサムソン。そして、宇宙は平和になったはずでした。

しかし、ビルダー星系での不穏な動きを察知したイダテンは単身調査に乗り出したのですが、「これからボ星を調査する」といった通信を最後に、行方不明になってしまいます。

ビルダー星系で何かが起ころうとしている。そんな予感を抱いたベンテンは、かつてともに戦った人間界の王子たちにして、イダテンのことを兄貴として慕う2人の勇者、アドンとサムソンにイダテン探索を命じたのでした。

…という感じで。
ストーリーは前作『超兄貴』の正統続編です。そして今作では2人同時プレイが可能となりました。1Pがアドンを、2Pがサムソンを動かします。ここまでは何の問題もありません。本作の特徴は、「前作のような分かりやすいシューティングではない」というところであり、メサイヤいわく、「弾を撃たずに心を打つシューティング」という点です。
俺が何を言っているのか、よく分からないと思いますので、画像付きで紹介しますね。

これ(↑)がゲーム画面です。1人でプレイしたためアドンしかいません。自機は空中に浮いている状態で十字キーで上下左右、そしてナナメ方向に動きます。基本的には右スクロールのシューティングゲームです。
しかし、本作ではシューティングゲームの基本中の基本である「弾」が出ません。いや。一応出せると言えば出せるのですが、連射ができず、オートで飛んでいき、しかも威力も弱い。じゃあ、どうやって敵を倒すのかというと、「ポージング」です。

これ(↑)が「ポージング」です。鍛え抜かれた筋肉をアピールするポージングを行なうことで、それを見た敵の心に訴えかけて自爆を誘発する…。それが「ポージング」であり、「弾を撃たずに心を打つシューティング」ということであり、『愛・超兄貴』というゲームなのです。本作がかなりチャレンジングな禁断の作品であることがお分かりいただけたでしょうか。
ちなみに、ポージングは7種類あり、
「悦楽吐息」
コマンド:IIボタンのみ
解説:オートで最寄りの敵を探知して、丸い弾を当てる弱攻撃
「男魂」
コマンド:←(溜め)→+IIポタン
解説:自分の水平方向にいる敵への中攻撃
「汗汗乱舞」
コマンド:Iポタン
解説:Iボタンを押している間は無敵。敵の攻撃回避に使用する
「悶絶昇天心中」
コマンド:↓(溜め)↑+IIボタン
解説:自分の上方向にいる敵へ中攻撃
「悶絶心中」
コマンド:↑(溜め)↓+IIボタン
解説:自分の下方向にいる敵へ中攻撃
「倒錯兄弟」
コマンド:↓↘→+IIボタン
解説:近距離への強攻撃
「男性地震」
コマンド:→←↓+IIボタン
解説:画面全体の敵へ小攻撃。ただし、発動に少し時間がかかる
…こんな感じ。これらをポージングを駆使して、敵を倒していかなければなりません。そして敵を倒していくと(ポージングを決めていくと)男エネルギーが蓄積されていき、

「メンズビーム」
コマンド:↓↘→+IIボタン
解説:超必殺技。発動には男エネルギーの充填が必要
…を放つことができます。
「メンズビーム」は無双の威力を誇っており、ステージの最後に待ち構えているボスを上手く行けば一撃で沈められるほど。ただし、「倒錯兄弟」とコマンドが同じであるため、誤入力には気を付けなければなりません。
『愛・超兄貴』とはこういうゲームなのです。

愛の問題点

対戦格闘ゲームで遊んだことがある方なら、ここまでの説明を聞いて、イヤな予感があったと思います。「えっ、空中を浮遊していて十字キーで自機を操作しながら、十字キーでコマンドを入力?そんなことできるの?誤入力しちゃうんじゃ…」と。はい、その通りです。

本作のポージングのコマンド入力は、比較的カンタンなものばかりですが、自機の操作とともに行われるため、コマンドの誤入力が多発してしまいます。このことを本作の問題点とあげるゲーム雑誌・ゲームブログは多々ありますが、その点について、俺は「異」を唱えたいです。本作を一般的なシューティングゲーム&対戦格闘ゲームと捉えるべきではありません。
本作は、羽生結弦のフィギュアスケートのように、あらかじめどこで何をやるということが決まっており、敵を倒さなければならない場所&タイミングで、もっとも適したポージングを決め、プレイを魅せるゲーム…なのです。
ゆえに、コマンドの誤入力が起こらないように自機を動かすルートを考えておくこと、いつも狙ったコマンドが出せるようにしておくことが大事。「パターン覚えゲー」といってしまうと元も子もないのですが、敵が次にどう出てくるかを覚えておき、華麗に対処していく。ステージの最初から最後まで、ノーダメージで、ノーミスでコマンド入力でポージングを決まっていくと、なんともいえないエクスタシーを感じることができます。たぶん、このプレイ方法こそが正解ではないか?と、俺は本気で思っていたりするわけです。

問題点は、別のところにあります。
あまりにも、人類史上類を見ないゲームシステムのため、本来ならばそうとう作り込んでいく必要があるのですが、プランナーやディレクターもこのゲームの最終形のビジョンが持てていなかったのか、かなり作り込みが甘い状態での発売となってしまった点です。
事実かどうかは分かりませんが、この作品は未完成で見切り発売されている感じがあります。
理由の1つは、ゲームのボリュームが少ないこと。ボス数やステージ数が前作より少ないのですが、ステージ4は他のステージと比べてエリア数が半分。しかも、「ビルダー星に行く」というストーリーにも関わらず、ビルダー星のステージが存在せず、ラスボスが登場してしまいます。ステージ2つ分くらいお蔵入りになってしまったんじゃないでしょうか。推測ですが。
2つ目の理由は、エンディングがどう考えても手抜きであること。最終ステージに到達するまでの点数でエンディングが変わるのですが、その仕様が取って付けたようなものと感じるのは俺だけでしょうか。しかも、エンディングはオープニングの凝りようとは対極的で、文字が流れるだけのものとなっています。
ゆえに、俺はこの作品をこう評価しています。
前作『超兄貴』で構築に成功した筋肉世界観をより活かすために、ボディビルのポージングをゲームに入れるというアイデアはなかなか秀逸であり、1995年という時代の対戦格闘ゲームブームを踏まえてコマンド入力仕様にしたのも納得のいくものだが、面白いゲームとして昇華させるには予算と時間が足りなかった惜しいゲームである、と。
「空中浮遊でのポージング」というアイデアはなかなか良いと中の人も思ったのでしょう。スーパーファミコンで発売される『超兄貴 爆裂乱闘編』に受け継がれることになります。
ちなみに本作の音楽を担当したのは、岩崎琢氏。前作の音楽を担当した葉山宏治氏はメサイヤと著作権関係でいろいろあったらしく、以降メサイヤブランドのゲームでは音楽を担当しなくなったり、リメイク作では葉山宏治氏の曲が差し替えられています。で、岩崎琢氏の出番なのですが、岩崎さんの曲も素晴らしいものばかり。個人的には前作と甲乙つけがたいいい兄貴サウンドです(褒め言葉)。
本作は、熟練のポージングマスター2人で2Pプレイすると、なんとも言えないユニゾンになります。恋が芽生えないように、禁断の愛の扉を開けないように、ほどよくお気をつけください。
