ある日、週刊少年ジャンプの誌面に素晴らしい記事が漂っているのが発見された。傍若無人だった。CPシステムIIIを使ったアーケード版『ジョジョの奇妙な冒険』をプレイステーションに移植しようというのだ。ヴァンパイアセイバーのような移植になるのは目に見えていたが、争った形跡はなく、誰がこの無茶な計画を進めようとしていたのか誰も分かるものはいなかった。記事と製品でただひとつ変わっていたのは、あれだけ大々的に報じられていたスタンドが半透明表示される仕様がなかったことにされていたことだ。その一方で、オマケゲームや新キャラを大量追加したアーケードモードとスーパーストーリーモードの二重構造をみんな不思議がり、宝の発見ともてはやしたが、16年もすると、やがて忘れられた…。

こんにちわ、レトロゲームレイダース/ジョーンズ博士です。
今回発掘した作品は、カプコンが1999年に発売した、プレイステーション用対戦格闘ゲーム『 ジョジョの奇妙な冒険 』です。前年、静かに終焉を迎えようとしていたアーケード対戦格闘ゲームブームの中で、異彩を放った傑作『ジョジョの奇妙な冒険』の移植版でした。
この時に使用されていたのがCPシステムIIIという基板でして、2D用システムとしては非常に高い性能を誇っており、アニメーションパターンが多く、なめらかな動きをするゲームに向いたものでした。『ウォーザード』、『ストリートファイターIII』が代表作です。
当然、すでに時代遅れの機種となっていたプレイステーションでは、移植はされたとしても、また大量にアニメーションパターンが削られるんだろうなぁと、「ヴァンパイアの悲劇」を思い起こしたものでした。結果として、その懸念点はその通りになったわけですが、削らざるを得なかったものの埋め合わせとして新たに実装された原作のストーリーを追っていくスーパーストーリーモードの出来が素晴らしく、そのためだけにPS版を買っても惜しくないほどだったの出来に、私たちは「最高にハイッてやつだ!」と叫んだものです。
そんなわけで、PS版の魅力が分かる自作PVを作ってしまいました。
展開に目が離せなかった週刊少年ジャンプ――その青春!

『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』の原作が、どんな物語だったのかを、簡単に説明させていただきたい。

第一部『ファントムブラッド』の最後で、運命のコインと表と裏というべき、ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドーの二人の数奇な運命は、蒸気帆船の大爆発とともに終止符を打たれたかに思われた。
しかし、ディオは生きていた。
首だけになっていたディオはジョナサンの肉体を奪い、用意していた鋼鉄の棺桶に身を潜め、大西洋の海中に逃れていたのだ。
そして100年後。大西洋アフリカ沖カナリア諸島において、沈んだ船の財宝と間違われたディオの棺桶は人の手によって開かれることになり、人類は吸血鬼ディオをふたたびよみがえらせてしまう。しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。
太陽の導きによる誇りの道と、血塗られた野望の道を進むジョナサンとディオの身体がひとつとなり、運命の道が交差したことにより、ディオは新たなる力を身につけた。その能力は、タロットカードにおける「成功」「完結」「願いの成就」を暗示する『世界(ザ・ワールド)』。不死身、不老不死、スタンドという三つのチカラを手に入れたディオが、生物支配のヒエラルキーの頂点に立つのは時間の問題と思われた。
しかし、運命の抑止力はふたたび数奇な連鎖を生む。
ディオの新たなチカラの目覚めに呼応するかのように、ディオの肉体と血脈という絆で繋がるジョースターの子孫たちにも、能力が覚醒しはじめたのである。受け継がれたのは、ジョナサンの時代の50年後、石仮面を作り出した“柱の男”たちの激戦を戦い抜いたジョセフ・ジョースター(第二部の主人公)、そして、日本の高校生であるジョセフの孫・空条承太郎。
そのチカラは、パワーあるヴィジョン。まるで背後霊のように本人のそばに立つ(STAND UP)というところから、幽波紋(スタンド)と命名された。

しかし、同じころ。ジョナサンの肉体からディオも、ジョースターの血統たちの異変を感じ取っていた。「始末すべき宿命、
かくして、ディオのいるエジプトを目指して、スターダストクルセイダーズの果てしなき戦いと冒険の旅がはじまった――!
対戦格闘ゲーム雄・カプコン――その誇り高き血統!

『ジョジョの奇妙な冒険』がゲームセンターに姿を現したのは、対戦格闘ゲームがかつてほどの盛り上がりを見せなくなり始めていた1998年末。そして、あれだけギャラリーが集いしゲームセンターも落ち着き、熱気の消失とともにスターダストな作品が軒を並べていた、そんな100年目の倦怠ともいえる時代の話です。対戦格闘ブームの火付け役でもあったカプコンは、おそらくどの企業よりも、対戦格闘ゲームの目覚めのために、未来のために、ファンからその名を呼ばれて、模索と行動を行なっていたゲームメーカーだった気がします。
そして、男たちは、いや『ジョジョの奇妙な冒険』は、『ストリートファイターII』シリーズや『ヴァンパイア』シリーズや『ストリートファイターZERO』シリーズに触れたことがある人なら誰でも馴染みやすいにも関わらず、『ストリートファイターII』とも、『ヴァンパイア』とも、『ストリートファイターZERO』とも、『ストリートファイターIII』とも違う新境地へ向かうのです。それは、時の砂を越えるJouneyといえる過酷な挑戦でした。
特筆すべきことは、本作はすでに作られていた格闘ゲームのキャラクターをジョジョのものにすり変えたようなものではなく、根底となるゲームシステムからジョジョのために設計され、プレイキャラクターとスタンドと戦略とそこから生まれるドラマが、鎖のように連なる絡み合う宿命(カルマ)のように紡がれた、これまでにない対戦格闘ゲームとしてチューンナップされていた作品だということです。

そのクオリティたる輝きを表現するなら、白金(光)!既存の対戦格闘ゲームの大枠を保守しながら、複雑なオプション的な仕様だけで乗り切ろうとする格闘ゲームの参加を絶つ運命(さだめ)のために、Stand up!したようなゲームでした。
本作の大きな特徴は、やはり「スタンド」。このことをピックアップしないわけにはいきません。

プレイキャラクターのほとんど(若き日のジョセフ以外)がスタンドを持っています。スタンドはスタンドボタンで出現させたり消すことが可能。スタンドを出した状態で攻撃するとスタンドに攻撃させることになり、スタンドを出さない状態だと生身で戦うことになります。結論から言うと、スタンド出現状態のほうが“恩恵”が多いです。まずは攻撃力が高く、コマンド技の多くも、スタンド出現時を前提にしたものばかり。削り技に関してもスタンド出現状態で防御すれば、スタンドゲージは削られますが、本体の体力ゲージは削られません。間合いも、スタンド出現時のほうが広い。そのため、本作は、基本的にスタンドを出して戦うことを前提にした仕様になっていることがうかがえます。もう、このあたりから原作ファンの私などは、下半身がStand up!です。
ただし、スタンドも万能ではありません。その主な理由はスタンドゲージにあります。スタンドゲージは攻撃を受けたり、技を出しまくっていると消費され、ゲージがゼロになると、スタンドブレイク(スタンド消失)状態になってしまうのです。スタンドゲージは時間が経てば回復しますが、それまでは攻撃力が低く、防御力も低く、あまりにも無防備すぎる生身の状態で戦わなければなりません。
賢明な読者のみなさんはすでに気づかれていると思いますが、ここが本作がその他の格闘ゲームともっとも異なる点です。もちろん、打ち込むのは、俺のスタンドだ。敵を倒すためには、まずはスタンドを叩いて叩いて叩きまくり、スタンドブレイク状態にしたところで、『本体』を叩いて倒す――。実はコレ、原作のバトルパターンそのままだったりします。その一方で、どんなに強いスタンドにも「スタンドブレイク時は弱くなる」という共通の欠点という絶対ルールがあるので、もう大丈夫(Aii right now!)。
敵が強すぎないので心を折らない仕様。プレイしたくても「オラんちにはない」ということがないように、ファンなら絶対持っておくべき、誇りのBulletです。
そんな本作ですが、現在ほどまだ『ジョジョの奇妙な冒険』が認知されていなかった時代。アクの強いビジュアル、原作を知らないととっつきにくそうなシステムなどから、リリースされても新規ユーザー獲得にはあまり結びつかず、鬱屈したマーケットに放ったBreak you down!は叶いませんでした。その後、新キャラを追加したバージョンアップ版『~未来への遺産』をリリースしますが、こちらもBreak you down!は叶わず。
かつて、ゲームセンターにあった誇り高き格闘ゲームの物語は
世間に聞こえることは決してありませんが、
一部のファンたちの間で語り続けられることでしょう…
と、歴史の闇という名の海底に深く沈むところだったかもしれません。しかし1999年、本作は第三部をこよなく愛するカプコンのジョジョファンによる、究極のジョジョのファンのためのジョジョゲームとして、プレイステーションに移植され、アイツはとんでもないものをBreak you down!していきました、私の心です的な拳を握りしめ、何を放つくらいの感動を与えてくれたのでした。
長くなりましたが、いよいよ『PS版ジョジョの奇妙な冒険』の話に入ります。本作は、原作が放射する聖なるヴィジョンをきちんと掴み、精密な原作表現を実現するとともに、豪快に「これはゲームたぜッ悪いかッ」とばかりに大胆なゲームアレンジがなされている、まるで二面性を持つ『星』カードの暗示。原作愛だけでなく、ゲーム屋としてのカプコンのSTAND PROUDを感じる作品でもあります。
家庭用移植で勝った『第三部・完』ッ――未来への遺産!

私が、PS版『ジョジョの奇妙な冒険』を名作として推す理由は、もともとのアーケード版に決定的に欠けていた要素を補完したことで、『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』のゲーム化として“完成形”にまで昇華された点にあります。もちろん、アーケード版に比べ、PS版はキャラクターパターンが大幅に削られていますし、『~未来への遺産』に比べてバランス調整の甘さがあるのも事実です。
しかし、それは対戦格闘ゲームとしての話。「『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』のゲーム化」という点では、本作以上に原作のエッセンスを再現している作品はありません。
それは、PS版だけに実装されている「スーパーストーリーモード」にあります。

「スーパーストーリーモード」とは、『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』の原作通りに、原作通りの対戦を行なって、エジプトにいるディオまで突き進むというモードです。ジョースター一行である、承太郎、ジョセフ、花京院、アブドゥル、ポルナレフ、イギーすべてを使っていかなければならないため、最低でも6人分のコマンド修得が必須。全39話(39戦)を戦い抜くモードです。
本作は、アーケード版に登場する、承太郎、ジョセフ、花京院、アブドゥル、ポルナレフ、イギー、呪いのデーボ、チャカ、ミドラー、アレッシー、ディオ、誇り高き血統ジョセフ、悪の化身ディオに加え、ホル・ホース、ペット・ショップ、マライア、アヌビス二刀流ポルナレフ、ヴァニラ・アイス、ホル・ホース&ボインゴ、カーンといった後に『未来への遺産』に追加されるキャラに加え、ンドゥール、デス13、エンヤ婆、カメオとの対戦も可能に(一部、対戦格闘仕様のアクションゲームというカタチだが)。さらに、スティーリーダンとのジョセフの体内での戦いはオリジナルシューティング、ダービーとの魂をかけたギャンブルやストレングスとの戦いはミニゲーム、その他の戦いもQTE付きのインタラクティブコミックとして収録。スターダストクルセイダーズの全行程をあますことなく体感できます。
なぜ、私がこの「スーパーストーリーモード」を高く評価するのか。それはもちろん、ミニゲーム一つひとつの作り込み・原作へのこだわりもありますが、第三部のテーマはまさに『旅』であることを表現しているからです。

『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』は、宿敵ディオを追ってエジプトまで旅をする物語です。その行く先々では、ディオの刺客であるスタンド使いたちが、一行の息の根を止めようと襲いかかってきます。週刊少年ジャンプに連載されていた少年バトルマンガですので、旅の部分はただのストーリー展開として見過ごされがちですが、物語において、この『旅』は「主人公たちの成長」のために重要なプロセス。ここに触れずして、第三部を語ることはできません。
第三部は、第一部の宿敵ディオとジョースターの子孫が相まみえます。そして再び、ディオとジョースター家との宿命の螺旋を感じさせるストーリーでもあります。
二人の囚人が鉄格子の窓から外を見た。
一人は泥を見た。
一人は星を見た。
これは、第一部の第一話で使用されているフレデリック・ラングブリッジの「不滅の詩」の一節。同じ風景でも見る人の心によって見えるものが違ってくるという解釈の詩であり、正反対の道を進むジョナサン(第一部の主人公)とディオを示しています。第三部の物語は、留置所(鉄格子の中)からはじまり、そこで主人公・空条承太郎は自分のスタンドであるスタープラチナ(タロットカードの『星』の暗示)の存在を認識します。これはどういうことなのか。ジョナサンとディオだけで完結するはずだった物語は、ジョナサンとディオが一人となったことにより、“運命の連鎖は続いている”という暗示となっているのです。

ジョナサンとディオはどういう関係だったかを思い出してください。お互いの性格は正反対。進むべき道も、あがめているものも、持っている夢もまったく違う。お互いに疎ましく、“敵”という認識もある。しかし、ディオがいたからこそ、ジョナサンは誇り高き精神をまとうことができ、波紋戦士としての才能を開花させ、多くの協力者の力を借りることができた。ディオにとってはジョナサンがいたからこそ、野望をたぎらせることができ、人間をやめて不死の存在になることができ、自分の運命を変えることができた。そして、互いの存在があるからこそ、二人の望みは常に相手によって阻止され、決して成就されることがない。
この関係性は、第三部でも生きています。ディオはジョースターの血統を根絶やしにするために、10数名の刺客を送ります。エンヤ婆は反対しますが、ディオはジョースター抹殺に執着し、その結果、宿敵たちに戦いを通じて“成長”させていく機会を与えてしまうのです。

スタンドとは精神力のパワーあるヴィジョン。スタンドと関わる旅は、“自分自身を知るための旅”ともいえるでしょう。主人公・空条承太郎のもっとも優れた長所は“観察眼”でした。原作を読んでみると、承太郎の気づきによって難局を乗り切るシーンが本当に多いことに気づくでしょう。生死をかけた戦いの中で、承太郎はこの観察眼を磨きつづけ、ディオのスタンド『世界(ザ・ワールド)』と初の対峙の時に、無意識の中でいきなり本質を見抜くのです。
「俺のスタープラチナと“同じタイプ”のスタンドだな」、と。
腹心のヴァニラ・アイスとディオとの戦いは、まさに総力戦でした。旅のはじまりの個々人だったら絶対に勝てなかった戦いは、旅の中で学んで成長した要素によって、勝利を得られるという構成です。
大変長くなりましたが、何が言いたいかというと、第三部において、『旅』は重要な要素。サブタイトル案のひとつに「スターダストトラベラーズ」というものがあった通り、やはりキーポイントは『旅』なのです。旅なくして、第三部を語るかどうか。カプコンの“分かっている感”の深さを、私はこのプレイステーション版に感じるのです。
現在、第三部はアニメ化され、1年間にわたって放映されることになりました。すべてのエピソードが再現され、エジプトまでの道のりを描くそうです。この機に、本作をプレイし直してみて、『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』に浸ってみてはいかがでしょうか。
「存在をはじめて知った」という方は、原作であるコミックスからどうぞ。第三部だけでも面白いですが、第一部から読むことをオススメします。






























そして時代は流れる!世代は交代する!
西暦2001年。
空条承太郎から奇妙な依頼を受けた広瀬康一は、
古い歴史と経済危機の国イタリアにいた。
その依頼とは、ある人物の細胞を摂取するというもの。
ターゲットの名は、汐華波流乃(シオバナ ハルノ)。
愛称は、ジョルノ・ジョヴァーナ。
ジョナサンの遺伝子を受け継ぎ、ディオによって生かされた子供。
マフィアが牛耳るこの国において、
いま、さわやかな一陣の風が吹き始めていた。
『黄金体験』の時は近い。
第五部 『黄金の風』につづく。




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