
2021年2月11日に『天外魔境 ZIRIA』と『天外魔境II 卍MARU』をつなぐ小説『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』が発売されました。
こちらですが、最初はビミョウだなーと思っていたのですが、二回目に読み返してみたらなかなか良かったので、ちょっとだけネタバレを含みつつ、その魅力をお伝えしていきたいと思います。
『天外魔境 FAR EAST OF EDEN』とは

スミソニアン博物館東洋研究第3主事の東洋研究家であるP.H.チャダ氏による『FAR EAST OF EDEN(エデンのはるか東)』という本に書かれている物語を原作としたゲームシリーズです。まあ、このP.H.チャダという人は架空の人物で、前述したものは「設定」になるわけですが(笑)。
もともとは実写映画やアニメ作品として企画されたものだったらしいのですが、1990年当時、ハドソンが進めていた世界初のCD-rom2用RPGの題材として選ばれ、制作はいろいろ難航したようですが、ついに日の目を見ることができた作品でした。
『天外魔境 FAR EAST OF EDEN』は、外国人から見た間違った日本観をテーマに16~18世紀の日本をベースとした架空の国ジパングを、外国人宣教師ホテイ丸がジパングを旅しているときに起きた出来事をつづったという物語で、三部構成になっているという設定でした。第一部がジパングの東部を舞台にした「坂東編」、第二部がジパング中部を舞台にした「大和編」、第三部がジパング西部を舞台にした「竜宮編」になる予定で、第一作目『天外魔境 ZIRIA』は原作にあった坂東地方の物語をゲーム化しています。
ところが、第二作目である『天外魔境II 卍MARU』は、もともとの原作にあった出雲の国のネの一族が反乱を起こすといった要素は活かしつつも、ゲーム用に新しく作られたオリジナルストーリーで発売されました。第三作目である『天外魔境III NAMIDA』もスタッフが変わりましたが同様に作られています。
ところが、実はここで1つの問題が起きていました。
『天外魔境 FAR EAST OF EDEN』は、外国人宣教師ホテイ丸がジパングを旅する物語という話をしましたが、ゲーム版ではこの根本となる部分がすっかり抜けてしまっているのです。それは、ホテイ丸がジパングを旅する本当の目的にあたる部分でした。
宣教師ホテイ丸の使命

ホテイ丸がジパングを旅する本当の目的は、密かにジパングに持ち込まれたと思われるバール神の行方を追うことでした。
バール神とは、はるか西方の国カナンにおける神と神の争いにおいて敗北し、「悪魔」の烙印を押されてしまった存在のこと。バールはその使徒たちの手によって勝利した神ヤハウェの手の届かないはるか東の国ジパングに渡ったと伝えられていました。
『天外魔境 ZIRIA』に出てくる坂東の幕府を乗っ取った「大門教」は、デーモン教の名前をもじったものであり、バールを信奉する集団です。『天外魔境 ZIRIA』では、火の一族である自来也、綱手、大蛇丸の3人によって大門教の野望マサカドの復活は阻止されることになります。しかし、マサカドはすでに肉体を失い怨霊となった存在。それが肉体を持って復活するというものは、何かしらのバックアップがなければ実現できません。そこにバールが存在していました。ゆえに、小説版『天外魔境 ZIRIA』、Xbox360版『天外魔境 はるかなるジパング』では、復活したマサカドの名前はバールダイモンとなっています。
つまり、何が言いたいかというと、『天外魔境』のストーリーには「ホテイ丸の旅」が欠かせないものであり、ホテイ丸の旅にはバール探索が欠かせないのです。『天外魔境II 卍MARU』『天外魔境III NAMIDA』のゲームからまったく存在を消してしまったバール。しかし、『天外魔境II 卍MARU』『天外魔境III NAMIDA』の戦いにもバールが関与していたとしたら…。
『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』とは、そういう物語なのです。
『天外魔境 THE ORIGIN』というべき作品

アニメ『機動戦士ガンダム』に漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』という存在があります。アニメ版のストーリーと構成要素をきちんと踏まえて再構築することで新しい解釈を与えてくれる作品でした。『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』は、まさに『天外魔境』における『THE ORIGIN』的な面白さがあります。
『天外魔境II 卍MARU』は、1000年前にジパングを征服しようとして敗れた根の一族による反乱の物語でした。プレーヤーは火の一族の末裔の1人卍丸となって、大和のいたるところに咲き、人間の生命を吸い続ける巨大な暗黒ランを伐採していく旅に出ます。しかし、そんな卍丸の前に立ちはだかる根の一族の幹部たち。根の一族VS火の一族の1000年にわたる戦いがはじまるのです。根の一族にはヨミという創造主がおり、火の一族にはマリという創造主がいます。2人ははるか彼方の宇宙から飛来した「神」であり、ジパングの大地を創ったと伝えられています。ここまでがゲームの話です。
『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』では、このヨミとマリの話をそれぞれの一族に「伝えられている神話」としつつも、神話とは事実として伝えたがっていた者たちの意志が入ったものであり必ずしも事実ではない、という解釈がされています。根の一族の王にヨミという名の王は存在した。根の一族の住む土地に何かが飛来したという伝承も残っている。しかし、飛来したものとヨミが同一のものとは限らないということです。
何が言いたいのか。
『天外魔境II 卍MARU』の物語とは実は、「根の一族こそ唯一絶対の神に仕える存在と信じたい者たちと、火の一族こそジパングを守護する存在と信じたい者たちの戦い」という解釈が、『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』ではなされているのです。
そもそも根の一族はなぜ1000年も恨みを重ねているのでしょうか。それなりの弾圧、迫害を受け続けてこなければ説明がつきません。では誰が根の一族を迫害してきたのか。それは恨みの対象であるジパングの執政者と火の一族といえるでしょう。ジパングの執政者も火の一族も加害者という側面がなければ、国家転覆といったクーデターは起きようがないのです。
こうなってくると、『天外魔境II 卍MARU』の物語の見え方が変わってくるんですよ。根の一族も、火の一族も、一族の伝承を信じて、自分たちの掲げる正義のために戦っている。しかしその裏には、まったく存在を表に出すことなく、人心を惑わして、自分の都合のいいように物事を動かしている本当の邪悪がいる。なぜ、神であるヨミは汚らしい蟲の姿で生まれたのか。なぜ、ヨミは稲妻を操ることができたのか。卍丸たちは何と戦っていたのか。卍丸たちが戦っていたのは、根の一族の恨みと根の一族たちの暗黒ランといった仕組みを利用し、本当のヨミをも飲み込み、現世に受肉して復活を遂げたバールだったのではないか。悪魔であり、嵐の雨の神であるバールならば、蟲の姿であったことも、稲妻を操ることも符合するのではないでしょうか。
『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』は、このような面白さがある小説だと俺は感じました。
売れ行きが『天外魔境』IP復活につながるかも…
『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』は、『天外魔境I』から『天外魔境II』につながる物語です。根の一族がいかにして大和地方を制圧するだけの力を持つに至ったのかという過程が描かれます。しかし、この説明だとまったく面白さが伝わりません(涙)。
少しだけストーリーを紹介すると、
物語は、坂東で大門教が壊滅した後からはじまります。完全消滅する前にバールを自らの身体に取り込んだ幻王丸は、落ち武者として大和に逃げのび、1人の姫と出会います。彼女は火多の国姉小路家の姫・雪。没落した家の再興を願うも叶わず、遊女にまで身を落とした女でした。
彼女に目をつけた破戒僧は彼女を引き取り、しゃべるしゃれこうべ髑髏本尊をつくるための明妃(修行のパートナー)として育てることに。その修行の中で、雪は己の可能性をどんどん開花させていきます。が、予期せぬ事態により、破戒僧自身が髑髏本尊になってしまうことに。髑髏本尊は未来を示す託宣を得られる。託宣により、雪姫と髑髏本尊はイヒカの里にいる三博士と邂逅。そこに幻王丸も加わり、自分たちの未来は根の一族とともにあることを知るのでした。
根の一族の工作員、菊五郎、肉助は雪姫と幻王丸と出会い、自分たちの悲願であるヨミと暗黒ラン復活のカギが雪姫であることを知ります。そして、この出会いから地下活動しかできなかった根の一族の野望は一気に膨れ上がり、加速的にヨミと暗黒ラン復活実現が進んでいくのですが、それは計画に異物が混入したことで、少しずつ不協和音を起こし、関わる者たちは少しずつ、しかし確実に狂っていくのでした…。
という感じのストーリーです。
個人的に気になっていることが1つあって。本作では「火の一族」を「ヒの一族」、「根の一族」を「ネの一族」と表記しています。これは自分の解釈ですが、「火」という漢字は「ヒ」という音に対して付けた当て字であり、本来の意味ではないという解釈ができます。とするならば、火の一族に対して水の一族が出てきた『天外魔境III NAMIDA』を否定する、もしくは別ルートの話につながっていく可能性もあり得るわけです。うおおっ、燃えるぜ!
てなわけで、
『天外魔境I・II架話 髑髏譚 -SKULL TALE-』は、『天外魔境』の原点の魅力に触れられるお話だと思います。興味のある方はぜひ手に取ってみていただければと思います。当ブログでも『天外魔境』シリーズの魅力を発信して行きたいと思います。
最後は、この曲で締めたいと思います!

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