【レトロゲームと俺物語】『ユーズドゲームズ』と、新卒ブラック企業と、黒い人の話。

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世の中には、「えっ、そんな理由で!?」ということが、いろいろあったりするものです。例えば、自殺。「死を考えるほどに悩んでいたならひと言相談してくれたらいいのに」と親しい友人たちは言うかもしれませんが、自殺した本人は「死」をそんなに重く考えていなくて、「あ、死ぬのもアリかも…」くらいの軽い気持ちで、そういう選択をしてしまうパターンもあるんじゃないかと俺は思ったりします。

なぜ、そんなふうに思うのか。それは、俺もそんなふうに、「なんとなく死んじゃってもいいかなーと」考えていた、いや追い詰められていて思考停止して疲れきっていた時期があったからです。

時は西暦2000年。子どもの頃から思い描いていた夢を諦めて、何の仕事のイメージもないまま就職活動を行ない、「学生時代に接客業のアルバイトをやっていたから」というくらいの理由で、とある小売業の内定をもらった俺。その会社は東証一部上場企業でしたが、内情は結構ヤバくて、いわゆるブラック企業でした。

どれくらいヤバかったかというと、18時になると店長が正社員全員を事務所に呼び、店長の目の前でタイムカードを切らせ、「よしっ、売場に戻って良し!」ということをやっている会社だったのです。「?」という人のために説明すると、タイムカードを切っているのでシステム上ではみんなあがっていることになっているのですが、実際はまだ店舗で働かせてサービス残業をやらせていたってわけです。しかも、店長指導で。組織的にブラック労働環境を運営していたのです。東証一部上場企業でそんなことをやっている会社なんてない!という方は恵まれた環境で育ったのでしょう。あったんだよ、実際に。しかし、ご安心ください。後に正義の鉄槌が下されました。具体的には労働基準監督署が入って大変なことになります。

新卒入社の俺は、東京で有名な歓楽街が近くにあるお店に配属になりました。担当の売場には社員が三人いて、主任、二番手、三番手という具合。あとはパートさんとアルバイトという構成です。働きはじめてすぐ、二番手の先輩が出社する日に来ないという事態が起きました。主任も、俺も、パートさんたちも、事故やトラブルに巻き込まれたのではないかと心配することに。売場は正社員1人で回すのは厳しいので、先輩が謎の疾走を遂げた以上、主任と俺の休日がなくなることが確定です。俺は内心「うへぇ」と思いました。

3日後。二番手の先輩が見つかりました。

二番手の先輩の失踪を知ったお母様が街中を探して回り、ついに見つけたのです。先輩はどこにいたのか。NK流の風俗店の待合室にいたそうです。NK流というのは「西川口流」のことで、2000年代の埼玉県西川口は〇番が可能な違法風俗天国であり、その手法は「NK流」といわれ、埼玉県内のいくつかのエリアでも同様の違法サービスをするお店が増え始めていました。先輩の地元は第二のNKといわれている町で、先輩は3日間にわたって、地元のお店のNK流サービス店をめぐり続けていたのです。なぜ失踪したのか?という質問に対して先輩は、

「いや、なんとなく、仕事がイヤになったから…」

と答えました。『中間管理録トネガワ』のクズ講習で出てくる、カイジに後ろ姿がそっくりのクズ渡辺くんが語るクズエピソードです。しかも自分の母親に、風俗店の待合室でエロ本を読んでいるところを発見されたというではありませんか。母親が失踪した息子を探すために、街中の風俗店で「ちょっと待合室をのぞかせてください」と頭を下げている。俺ならいたたまれません。

賢明な読者のみなさんなら、「なぜ母親は風俗店を探し回ったのか?」と疑問に思うことでしょう。実は、先輩の失踪はこれが初めてではなかったのです。3回目でした。しかも、少しは行動パターンを変えればいいのに、毎回、地元の風俗店のどれかで見つかっているとのこと。先輩の失踪により連続出勤することになった主任と俺は、その分、二番手の先輩に働かせて有給休暇を取ることにしました。とはいえ、社員2人いないと回らない売場です。「大丈夫ですか?」と聞く俺に、先輩は「大丈夫さ。俺はこの仕事慣れているから!」とキラーンという感じの笑顔を見せてくれましたが、よくそんな台詞が吐けたものです。

この先輩の失踪が、俺の人事異動に関わってきます。実は、二番手の先輩は主任からの推薦で、東京都板橋区に新しく出来る新店のオープニングメンバーに内定していたのです(本人に告知する前でした)。会社としても社運を賭けた新店で、規模も全店で1位2位を争うもの。当然、オープニングメンバーは全店から「優秀なスタッフ」が集められることに。ところが、失踪についてウチの部門の部長が激怒して、「失踪するような奴をオープニングスタッフに出来ない」ということになります。でも、すでに店舗異動は終えていて、今から他店の優秀なスタッフを引き抜くわけにはいきませんでした。

で、三番手の俺が、代理で新店オープニングメンバーに選ばれました。

これ、どういうことかというと。新店の売場はすごく広いんです。開店時は特大セールをやるので、お客さんが殺到します。商品が売れるのは良いのですが、品出しやら作業やらが大変なわけです。加えて、主任と二番手は頭を使う仕事もあるわけですから、三番手には「誰よりも動くこと」が求められます。入社数ヵ月の俺にとっては守備範囲が広すぎて、背伸びしても全然届かないパフォーマンスが求められているのでした。

地獄の日々は、開店3日前から始まりました。なんと内装工事が遅れていたため、什器の搬入が予定通りに行なえません。結局、内装工事が終わったのは開店前日。そこから什器やら売場づくりがはじまりました。商品管理に届いた商品を献品し、どんどん売り場に並べていきます。並べた商品はすべて値付け登録をしなければなりません。結局、お店に泊まり込み、ほぼ徹夜で準備を終えます。フラフラの状態でお店のオープンを迎え、殺到するお客様の対応にてんてこ舞い。お昼ご飯をきちんと食べられないまま、夜21時の閉店まで働きました。

閉店後、明日の売場準備です。疲れた体にムチを打って、主任の指示のもと、売場変更の作業をします。お店を出たのは23時すぎでした。実は、開店後一週間は家に帰れません。会社が近くにビジネスホテルを予約して、そこに泊まって日々の準備に対応します。しかも運悪く、最寄り駅の駅前のビジネスホテルは予約が入っていたため、俺たちは3駅先のビジネスホテルに泊まることになりました。仕事が終わった後、主任たちと夜ご飯を食べに行き、ホテルに着いたのは午前2時すぎ。翌朝、主任を起こすために目覚まし時計を4時20分にセットします。お店では午前6時から仕事をするため、1時間前には起きなければなりません。ホテルがお店から遠いのでチト早めに動かなければならないのです。

ホテル暮らしは1週間で終わりましたが、その後も始発で出社し、終電で帰るという日が続きます。週1日ペースでお休みはいただいていましたが、疲労困憊のため、丸一日寝ていました。クリスマス商戦があり、年末年始セールがあり、年明けセールがあり、怒涛の日々が続きます。当時、俺はお昼ごはんに大盛りのお弁当とカップラーメンを食べていましたが、体重は日々減っていきました。一度万歩計で一日歩いた歩数を測ったら10万歩歩いていましたね。もう、とにかく眠い。いつでも眠い。日中働いている時にトイレに行き、大の個室で15分仮眠を取るのが日課になるほど、眠かったです。

ここから先の話は、疲労の極致にあった俺が見た幻覚だと思うのですが。ある時から、視界の隅に黒い人が見えるようになりました。その人は何をするわけではないのですが、気が付くと視界の隅にいるのです。お店では仕事モードになって気を張っているせいか見ません。でも、仕事が終わって仕事モードが解けると、視界の隅にいるのです。どう考えてもおかしいのですが、その頃の俺は「また、あの人か。あの人も大変だな」と思っていて、むしろ、苦労を共にする仲間のように、少し親しみを感じていました。

黒い人は、本当に印象が「黒い」くらいしかなくて。スーツみたいなものを着ている感じがしたので、俺は働いている人と認識していました。こちらを見ているという様子はなく、視界の隅に立っているだけ。顔の印象はありません。顔まで黒塗りということはないのですが、なんというか、ぼやけているというか、記憶に残るパーツがないというか。眉毛、鼻の形、ヒゲの有無、すべてよく分かりません。そもそも当時の俺はすごく眠かったですから。なんかもう、いつも疲れたな―とか、眠いなーとか、このまま死んじゃったら楽になるなーとか、そんなことを本気じゃないけど、考えて楽しんでいました。

ある仕事終わりの夜。俺は駅のベンチに座ってちょっと寝てしまっていました。ふと、目が覚めると、電車が停まっていてドアが開く音がしています。あの黒い人の足がすぐ目の前にあって、その人は電車に乗ろうとしていました。「いけない。俺も乗らないと!」と思い、急いで立ち上がります。その時、うたた寝する前に買っておいた500mlのペットボトルのウーロン茶が足元に転がってしまい、俺はそれを拾って、ドアが今にも閉まりそうな電車に、駆け込んで乗ろうとしました。ギリギリ乗れるか間に合わないか。間に合わないかも。でも急げばなんとか。そうやって駆け寄ろうとした瞬間、

ブオンッ

ものすごい風が目の前を駆け抜けました。何があったのか、一瞬分かりませんでした。目の前を駆け抜けていったのは、この駅を通過する快速電車だったのです。あれ、俺が載ろうとしていた電車は?そんな電車はありませんでした。キツネに化かされたような気がして、キョロキョロとまわりを見渡すと、近くのベンチに座っていたOLが、信じられないものを見るような目で俺を見ていました。その視線の意味を考えて、俺はたった今、通過する快速電車にものすごい勢いで飛び込もうとしていた事実に気が付き、一瞬で、全身の汗が冷たくなる怖気を覚えたのでした。

(なんか、良くない…)

なんとなく、「死」に魅入られているような気がして。俺は次の日から昼休みに休憩室で寝るのを辞めて、日にあたるためにお店のまわりを散歩することにしました。なぜ、日に当たろうと思ったのかは謎です(笑)。でも、店のまわりには何もなくて。俺は駅前まで来てしまいました。駅前には「〇〇書店」という個人経営の本屋さんがあり、何気なく入ったお店のゲーム雑誌コーナーに、一冊だけあった雑誌と出会います。それが『ユーズド・ゲームズ』でした。

「なんじゃ、これは!」

衝撃を受けました。ゲーム雑誌といえば、新作を扱った『ファミ通』みたいなものが当たり前だと思っていたのですが、なんと、この雑誌は旬を過ぎたゲームしか取り扱っていなかったのです。「21世紀に語りつぎたいゲームたち」「さまよえるメガドライバー」など、なんと香ばしい企画の数々。キャッチコピーが「時代を逆走!大胆不敵な中古ゲーム専門誌」ときたもんです。読んでみると、そこにあったのは1つひとつのゲームへの愛情あふれる記事の数々。一般的なそのゲームへの評価とは違う、新しい気づきを与えてくれる内容に感銘を受けたのです。俺のブログ記事の源流は、この時出会った『ユーズド・ゲームズ』になります。

『ユーズド・ゲームズ』によって、スーパーファミコン、メガドライブ、PCエンジンのソフトへの興味が湧いてきて、「自分はこれまでのハードのゲームをきちんと楽しんできていない」という事実に気が付きます。そして、レトロゲームの本格的な収集がはじまりました。

あいかわらず、仕事は忙しい日々が続いていましたが、「趣味」ができると人間、行動が変わるものです。会社の定期を使って、いろんなゲームショップを回ろうという気が起きて、仕事を早く終わらせるようになったり、休日の気分転換が出来たり、絶望的な生活サイクルが少しずつ明るい方向に変わってきました。気がつくと、あの黒い人のことは見なくなっていました。

その後、新店は経営陣の予想に反してお客さんが来ないお店であることが分かり、そんなお店に優秀人材を置いておくのはもったいないということになり、半年後、俺は元のお店に戻ることになります。戻ってくると、1歳年下の後輩がいて、あの二番手の先輩はいなくなっていました。聞くところによると、あの後、また失踪をしてクビになったそうです。かくして今度は俺が二番手になり、後輩を指導する立場になりました。そして、レトロゲームレイダーとしての活動もこの頃から始まるのでした。

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この記事は、レトロゲームファンの管理人がこれまでの人生でレトロゲームとどう関わって生きてきたかのエヒソード記事をまとめたものです。
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